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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

第三話 出版企画会議の話

第三話 出版企画会議の話




企画会議の後で

編集部に移って三年ほど過ぎた頃の企画会議の後の話です。

毎月、編集者全員が企画を持ち寄る会議が開かれていました。

その日も私の企画は四本ともGOサインが出されました。


「社長。ちょっと待って下さいよ」

エレベーターまで社長を追いかけました。

社長と専務が立ち止まりました。

「ちょっと、えこひいきが過ぎるんじゃないですか」

「俺や○さんの出した企画はいつも通って、何で他の企画はダメなんですか」

「返ってやりづらいですよ。俺たちは」


その頃、私の手抜きは極限まで達していました。

企画書なんて、タイトルと著者名と判型・頁数、印刷希望部数を箇条書きです。

ほかの編集者は、企画の趣旨や内容骨子など事細かくまとめてあります。

それなのに、私が見ても遜色ない企画書がボツになったり、継続審議です。

私が二日酔いの頭で適当に書いた企画は全部通ってしまいます。

あと二名ほど、いつも企画が通る編集者はいました。

でも二十名はいるのです。



プロとアマチュア

「ここじゃ何だから」と社長室へ連れて行かれました。

「キミは、将棋の大山名人って知っているか?」

「彼が言ったんだ。負けた勝負を覚えているのがプロ棋士だって」

「キミは自分の作った本が売れ残ったらどうする?」

「ほらな、キミや○君は必死で売ろうとするだろ。忘れないだろ」

「でも他の編集部員はどうだ。そんな本ありましたっけって調子だろ」

「売れたときは鬼の首を取ったように大騒ぎするけどな」

「売れなかったときは営業が悪いだの、宣伝が悪いだの、よう言ってくれるよ」

「どんな企画かじゃない。誰が企画を出したのかが問題なんだ」

「どの企画を採用するかなんてバクチみたいなもんだよ」

「企画書どおりに出来上がるとも言えないしな」

「結局は勝率の高い編集者に賭けるしかないんだよ」

「だったら企画会議って何ですか」


「必要ないな」と社長がつぶやき、その翌月から企画会議はなくなりました。

代わって進行調整会議と名付けられました。

進行状況の報告だけの会議です。

せっかくの企画提案の場を奪ってしまったようで、みんなには悪い気がします。


ただ一面では、その社長の言ったことは当たっています。

私も本屋さんは渡り歩きました。

毎月の売上げ推移もチェックしていました。

ある時、三省堂書店の本店で名刺の束を見せられました。

「○さんの名刺はこんなにあるよ」

店員さんが私の名刺を引っ張り出しました。

担当の店員さんやアルバイトさんに渡した名刺です。

「それとほら、この人もお宅の会社だよ」

私と同じ会社の編集部員の名刺を見せられました。

それも数枚ありました。

「お宅の会社って変わっているね。営業の人は誰も来てないよ」

もう一人の編集部員の名刺は、私と同じ、いつも企画の通る編集者でした。



第四話 土木から資格試験へ


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